圏の拡大と前層の層条件に関する圏論的考察

本稿は、ある圏 $B$ をより大きな圏 $C$ の充満部分圏とみなした際に、$C$ の対象を $B$ 上に制限した表現可能前層が、$B$ 上の Grothendieck位相に関して層 (sheaf) となるかという問題について、一連の論理的な検討と完全な証明をまとめたものである。

1. 基本概念の定義と例

本議論を完全に self-contained で明晰なものにするため、圏論における必要な基本概念を厳密に定義する。これらは以降のすべての定理や反例の基礎となる。

定義 1.1: 篩 (sieve) と Grothendieck位相

圏 $B$ の対象 $X$ 上の篩 (sieve) $S$ とは、 $X$ を余域とする射の集まりであり、任意の $f: A \to X \in S$ と任意の射 $h: A' \to A$ に対して、その合成 $f \circ h: A' \to X$ も必ず $S$ に属するという右イデアルの性質を満たすものをいう。

圏 $B$ 上の Grothendieck位相 (Grothendieck topology) $J$ とは、 $B$ の各対象 $X$ に対して、被覆 (covering) と呼ばれる $X$ 上の篩の集まり $J(X)$ を割り当てる対応であり、以下の公理を満たすものである。

  1. (恒等篩) $X$ 上の最大篩 (maximal sieve) $t_X = \{ f \mid \operatorname{cod}(f) = X \}$ は $J(X)$ に属する。
  2. (基底変換) $S \in J(X)$ であり、 $g: Y \to X$ が $B$ の射であるならば、引き戻し篩 (pullback sieve) $g^*(S) = \{ h \mid \operatorname{cod}(h) = Y, g \circ h \in S \}$ は $J(Y)$ に属する。
  3. (局所性) $S \in J(X)$ であり、 $R$ が $X$ 上の篩とする。もし任意の $f: Y \to X \in S$ に対して $f^*(R) \in J(Y)$ が成り立つならば、 $R \in J(X)$ である。
定義 1.2: サイト (site) と層 (sheaf)

サイト (site) $(B, J)$ 上の前層 (presheaf) $P: B^{\operatorname{op}} \to \mathbf{Set}$ が層 (sheaf) であるとは、任意の $X \in \operatorname{Ob}(B)$ と任意の被覆篩 $S \in J(X)$ に対して、自然な写像

$$ \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(t_X, P) \to \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, P) $$

が全単射となることである。ここで $\widehat{B} = \mathbf{Set}^{B^{\operatorname{op}}}$ は $B$ 上の前層の圏である。これを射の族の言葉で言い換えると、被覆となる射の族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ に対して、次のような図式が $\mathbf{Set}$ における等化子 (equalizer) になることである。

$$ P(X) \to \prod_{i \in I} P(A_i) \rightrightarrows \prod_{i, j \in I} P(A_i \times_X A_j) $$

定義 1.3: カノニカル位相 (canonical topology)

圏 $B$ 上のカノニカル位相 (canonical topology) $J_{\operatorname{can}}$ とは、任意の $X \in \operatorname{Ob}(B)$ に対して表現可能前層 (representable presheaf) $h_X = \operatorname{Hom}_B(-, X)$ が $(B, J)$ 上の層となるような最大の Grothendieck位相のことである。

定義 1.4: 結合全射 (joint surjection) と結合的に全射 (jointly surjective)

集合の圏やそれに類する圏における射の族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が結合的に全射 (jointly surjective) であるとは、これらから誘導される唯一の写像 $\coprod_{i \in I} A_i \to X$ が全射 (surjection) であることを意味する。

定義 1.5: コヒーレント圏 (coherent category) とコヒーレント位相 (coherent topology)

コヒーレント圏 (coherent category) とは、有限極限 (finite limit) を持ち、さらに有限な結合的に全射 (jointly surjective) な族による像分解などの良い性質を持つ圏のことである。コヒーレント位相 (coherent topology) は、有限な結合的に全射な族を被覆として生成される Grothendieck位相である。

2. 第1の問題:充満部分圏への制限と層条件

最初の問題は次のように定式化される。圏 $C$ とその充満部分圏 $B$ を考える。 $J$ は $B$ のカノニカル位相であり、 $J$ は $B$ のコヒーレント位相に一致していると仮定する。このとき、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ に対して、 $B$ 上の前層 $k_Y = \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ はサイト $(B, J)$ 上の層になるか?

定理 2.1

上記の命題は一般には成り立たない。すなわち、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ に対して $k_Y$ が層になるとは限らない。

証明:

反例を具体的に構成する。 $B = \mathbf{FinSet}$ を有限集合と写像からなる圏とする。 $B$ はコヒーレント圏であり、そのコヒーレント位相は有限な結合的に全射な族を被覆とする位相である。この位相は $B$ 上のカノニカル位相と一致する。この一致する位相を $J$ とおく。

$C = \widehat{B} = \mathbf{Set}^{B^{\operatorname{op}}}$ を $B$ 上の前層の圏とする。米田埋め込み (Yoneda embedding) $\mathbf{y}: B \to C$ は充満忠実 (fully faithful) な関手である。したがって、その本質的像を同一視することにより、 $B$ を $C$ の充満部分圏とみなすことができる。

$C$ の対象である特定の前層 $Y: B^{\operatorname{op}} \to \mathbf{Set}$ を次のように定義する。 $S = \{ 0, 1 \}$ を2点集合とする。 $Y$ を値が常に $S$ となる定数前層 (constant presheaf) とする。すなわち、任意の $A \in \operatorname{Ob}(B)$ に対して $Y(A) = S$ であり、任意の射 $f: A \to B$ に対して遷移写像 $Y(f) = \operatorname{id}_S$ である。

任意の $b \in \operatorname{Ob}(B)$ に対して、米田の補題により以下の自然同型が存在する。

$$ k_Y(b) = \operatorname{Hom}_C(\mathbf{y}(b), Y) \cong Y(b) $$

関手性も保たれるため、 $B$ 上の前層として $k_Y \cong Y$ が成り立つ。したがって、 $k_Y$ がサイト $(B, J)$ 上の層になるかどうかは、前層 $Y$ 自身が層になるかどうかに等しい。

$B = \mathbf{FinSet}$ は始対象 (initial object) として空集合 $\varnothing$ を持つ。ここで、空な射の族 $\emptyset$ を考える。この族は $\varnothing$ を余域とするとき、結合的に全射である。なぜなら、空な族の定義域の余極限 (colimit) は空集合 $\varnothing$ であり、そこから誘導される唯一の写像 $\operatorname{id}_\varnothing: \varnothing \to \varnothing$ は全射だからである。したがって、有限な結合的に全射な族である空族 $\emptyset$ は、 $J$ における $\varnothing$ の被覆となる。

この被覆 $\emptyset$ に対して前層 $Y$ が層条件を満たすか確認する。層条件は、次の図式が $\mathbf{Set}$ における等化子になることである。

$$ Y(\varnothing) \to \prod_{f \in \emptyset} Y(\operatorname{dom}(f)) \rightrightarrows \prod_{f, g \in \emptyset} Y(\operatorname{dom}(f) \times_\varnothing \operatorname{dom}(g)) $$

添字集合が空であるため、中央および右側の積は空積 (empty product) となる。 $\mathbf{Set}$ における空積は1点集合(終対象) $\{ * \}$ である。したがって、平行な二つの射はどちらも $\{ * \} \to \{ * \}$ なる唯一の恒等写像となり、その等化子は $\{ * \}$ 自身である。

ゆえに、層条件を満たすためには、自然な写像 $Y(\varnothing) \to \{ * \}$ が全単射とならなければならず、これは $Y(\varnothing)$ が1点集合であることを意味する。しかし、定数前層 $Y$ の定義より $Y(\varnothing) = S = \{ 0, 1 \}$ であり、これは2点集合であるため1点集合とは同型にならない。したがって、 $Y$ は空被覆 $\emptyset$ に対して層条件を満たさない。

以上により、 $k_Y \cong Y$ はサイト $(B, J)$ 上の層ではない。よって、命題は偽である。 $\blacksquare$

この命題が一般に成り立たない直観的な理由は、 $C$ という大きな圏が「層でない対象」をいくらでも含み得るからである。カノニカル位相は、あくまで $B$ の対象(表現可能前層)が層になることを保証する最大の位相に過ぎない。そのため、 $C$ 全体の対象 $Y$ が $B$ 上に制限されたときに、局所的な貼り合わせ条件を自動的に満たすという保証はどこにもない。

3. 第2の問題:有限結合的正則全射による被覆

次に、被覆の条件を「有限な結合的に全射な族」から「有限な結合的に正則全射 (finite jointly regular epimorphic) な族」に変更した場合を考察する。

定義 3.1: 正則全射 (regular epimorphism) と結合的に正則全射

任意の圏において、射 $e: A \to B$ が正則全射 (regular epimorphism) であるとは、それが何らかの平行な射の対の余等化子 (coequalizer) になっていることをいう。

有限余積 (finite coproduct) を持つ圏 $B$ において、有限な射の族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が結合的に正則全射 (jointly regular epimorphic) であるとは、それらから誘導される唯一の射 $\coprod_{i \in I} A_i \to X$ が正則全射になることを意味する。

集合の圏 $\mathbf{Set}$ や有限集合の圏 $\mathbf{FinSet}$ においては、すべての全射は正則全射である。したがって、この変更を行ったとしても前回の空集合を用いた反例は依然として有効である。しかし、仮に空な被覆を人為的に除外したとしても、空でない有限な被覆に対して層条件を満たさない前層を構成できる。

定理 3.2

被覆の定義を「有限共同正則エピ」すなわち「有限な結合的に正則全射な族」に変更したとしても、命題は成り立たない。

証明:

前回の証明と同様に、 $B = \mathbf{FinSet}$ とし、 $C = \widehat{B} = \mathbf{Set}^{B^{\operatorname{op}}}$ とする。 $B$ 上の位相 $J$ を、有限な結合的に正則全射な族を被覆とする位相とする。

$B$ の対象として、2点集合 $X = \{1, 2\}$ を考える。また、 $A_1 = \{1\}$ と $A_2 = \{2\}$ を $B$ の対象とし、それぞれの包含写像を $i_1: A_1 \to X$ および $i_2: A_2 \to X$ とする。このとき、余積 $A_1 \coprod A_2$ から $X$ への誘導射は恒等写像 $\operatorname{id}_X: X \to X$ となる。恒等写像は同型射であり、したがって正則全射であるため、族 $\{ i_1, i_2 \}$ は $J$ における $X$ の空でない被覆となる。

ここで、 $C$ の対象である前層 $Y: B^{\operatorname{op}} \to \mathbf{Set}$ を次のように定義する。

この前層 $Y$ に対して、 $k_Y = Y$ が被覆 $\{ i_1, i_2 \}$ における層条件を満たさないことを示す。層条件が満たされるためには、次の図式が $\mathbf{Set}$ における等化子にならなければならない。

$$ Y(X) \xrightarrow{e} Y(A_1) \times Y(A_2) \rightrightarrows \prod_{j, k \in \{1, 2\}} Y(A_j \times_X A_k) $$

各部分の集合を計算する。 $Y(X) = \{0, 1\}$ (要素数2)、 $Y(A_1) \times Y(A_2) = \{0, 1\} \times \{0, 1\}$ (要素数4)である。引き戻し $A_j \times_X A_k$ を計算すると、 $A_1 \times_X A_1 \cong A_1$ 、 $A_2 \times_X A_2 \cong A_2$ 、 $A_1 \times_X A_2 \cong \varnothing$ 、 $A_2 \times_X A_1 \cong \varnothing$ となる。

これらに $Y$ を適用すると、 $Y(A_1 \times_X A_1) = \{0, 1\}$ 、 $Y(A_2 \times_X A_2) = \{0, 1\}$ 、 $Y(A_1 \times_X A_2) = \{*\}$ 、 $Y(A_2 \times_X A_1) = \{*\}$ となる。右側の直積集合は実質的に $\{0, 1\} \times \{0, 1\}$ と同型である。

平行な二つの射 $p, q$ は、それぞれ引き戻しからの射影 $\pi_1, \pi_2$ によって誘導される。成分ごとに確認すると、対角成分では $\pi_1 = \pi_2$ であるため一致し、非対角成分では値域が1点集合 $\{*\}$ であるため必ず一致する。したがって、平行な二つの射 $p, q$ は完全に一致する写像である。

ゆえに、 $p$ と $q$ の等化子は、定義域の全体である $Y(A_1) \times Y(A_2) = \{0, 1\} \times \{0, 1\}$ (要素数4)そのものとなる。層条件が成り立つならば $Y(X)$ (要素数2)からこの等化子(要素数4)への全単射が存在しなければならないが、これは不可能である。以上により、 $k_Y$ は層にならない。 $\blacksquare$

4. 第3の問題:稠密性と余極限による閉包

さらに条件を追加し、「 $B$ が $C$ の稠密充満部分圏であり、かつ $C$ における余極限で閉じている」と仮定した場合を考察する。

定義 4.1: 稠密充満部分圏 (dense full subcategory)

圏 $C$ の部分圏 $B$ が稠密 (dense) であるとは、任意の $C$ の対象が $B$ の対象たちの余極限として自然に表されることを意味する。より厳密には、包含関手 $I: B \to C$ から誘導される制限された米田関手 $R: C \to \widehat{B}$ ( $Y \mapsto \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ )が充満忠実であることと定義される。

定理 4.2

「 $B$ が $C$ の稠密な充満部分圏である」という条件を追加したとしても、命題は一般には成り立たない。一方、「 $B$ が $C$ における任意の小さな余極限で閉じている」という条件を追加した場合、命題は真となるが、それは $B \simeq C$ という自明な状況に帰着する。

証明:

前半について。前層の圏 $C = \widehat{B}$ において、米田埋め込みによる本質的像 $B$ は稠密充満部分圏である。なぜなら、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(\widehat{B})$ に対して $R(Y) = \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(\mathbf{y}(-), Y) \cong Y$ となり、制限された米田関手 $R$ が恒等関手と同型になるからである。したがって、前回の反例はそのまま稠密性の条件を満たしており、反例として機能する。

後半について。 $B$ が $C$ の稠密充満部分圏であり、かつ $B$ が $C$ における余極限で閉じていると仮定する。 $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ を任意の対象とする。稠密性の定義より、 $Y$ は $B$ の対象からなる図式 $P: B \downarrow Y \to B \subset C$ の $C$ における余極限として表される( $Y \cong \operatorname{colim}_C P$ )。

仮定より $B$ は $C$ における余極限で閉じているため、図式 $P$ の余極限 $Y$ は $B$ の対象と同型にならなければならない。すなわち、 $Y \in \operatorname{Ob}(B)$ である。これにより、包含関手 $B \to C$ は本質的全射となり、 $B \simeq C$ が導かれる。

対象 $Y$ は $B$ の対象とみなすことができ、 $k_Y \cong \operatorname{Hom}_B(-, Y) = h_Y$ となる。仮定より $J$ はカノニカル位相であるため、任意の表現可能前層 $h_Y$ は層になる。したがって $k_Y$ は層になるが、これは $C$ が実質的に $B$ 以上の新しい対象を持たない自明なケースである。 $\blacksquare$

5. 第4の問題:層条件を満たすための圏論的十分条件

コンパクト生成空間の圏 $C = \mathbf{CG}$ とコンパクトHausdorff空間の圏 $B = \mathbf{CHaus}$ のペアのように、特定の良い圏の拡張においては命題が成立する。これを圏論的に一般化する。

定義 5.1: 有効全射 (effective epimorphism) と有効的結合的に全射な族

圏 $C$ において、射 $f: A \to X$ が有効全射 (effective epimorphism) であるとは、 $f$ の自分自身との引き戻し $A \times_X A$ が存在し、図式 $A \times_X A \rightrightarrows A \xrightarrow{f} X$ が $C$ における余等化子となることである。

射の族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が有効的結合的に全射 (effectively jointly epimorphic) であるとは、 $C$ において余積 $\coprod_{i \in I} A_i$ が存在し、誘導される射 $\coprod_{i \in I} A_i \to X$ が有効全射になることである。すなわち、以下の図式が余等化子になることを意味する。

$$ \coprod_{i, j \in I} (A_i \times_X A_j) \rightrightarrows \coprod_{i \in I} A_i \to X $$

定理 5.2

$C$ を圏とし、 $B$ をその部分圏(※ここでは充満性や稠密性は不要)とする。 $J$ を $B$ 上の Grothendieck位相とする。もし $J$ に属する任意の被覆族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が以下の2つの条件を満たすならば、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ に対して前層 $k_Y = \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ はサイト $(B, J)$ 上の層になる。

  1. 引き戻しの保存: $B$ における引き戻し $A_i \times_X A_j$ は、 $C$ における引き戻しでもある。
  2. 有効的結合的エピ性: 族 $\{ f_i \}$ は $C$ において有効的結合的に全射な族である。
証明:

任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ を取る。 $k_Y$ が層であることを示すためには、被覆 $\{ f_i: A_i \to X \}$ に対して、以下の図式が $\mathbf{Set}$ における等化子になることを示せばよい。

$$ \operatorname{Hom}_C(X, Y) \xrightarrow{e} \prod_{i \in I} \operatorname{Hom}_C(A_i, Y) \rightrightarrows \prod_{i, j \in I} \operatorname{Hom}_C(A_i \times_X A_j, Y) $$

仮定2より、族 $\{ f_i \}$ は $C$ において有効的結合的に全射である。したがって、 $C$ において以下の図式は余等化子である。

$$ \coprod_{i, j \in I} (A_i \times_X A_j) \rightrightarrows \coprod_{i \in I} A_i \to X $$

表現関手 $\operatorname{Hom}_C(-, Y): C^{\operatorname{op}} \to \mathbf{Set}$ は反変関手であるため、 $C$ における任意の余極限を $\mathbf{Set}$ における極限に変換する。したがって、上記の余等化子図式に $\operatorname{Hom}_C(-, Y)$ を適用すると、 $\mathbf{Set}$ における等化子図式が得られる。反変関手は余積を直積に変換するため、この等化子図式はまさに目的の層条件の図式と自然同型になる。ゆえに $k_Y$ はサイト $(B, J)$ 上の層である。 $\blacksquare$

補足:なぜ第5節では「稠密性」や「充満性」が不要なのか?

第6節の定理6.2では部分圏の「稠密性」と「充満性」が不可欠であるのに対し、この第5節の定理5.2ではそれらを一切仮定していません。この違いは、層条件の評価アプローチの違いに由来します。

定理5.2では、層条件を「射の族(被覆)」に対して直接評価しています。前層 $k_Y$ を被覆を構成する対象 $X$ や $A_i$ に適用すると、$k_Y(X) = \operatorname{Hom}_C(X, Y)$ となり、最初から大きな圏 $C$ における集合の圏 $\mathbf{Set}$ への関手として計算が進みます。そのため、$C$ 内部で「有効的結合的に全射」という形で余等化子が成立していれば、表現関手 $\operatorname{Hom}_C(-, Y)$ を適用するだけで、そのまま $\mathbf{Set}$ の等化子(層条件)が自然に導かれます。圏 $C$ と $\mathbf{Set}$ の関係だけで完結しているため、 $B$ と $C$ の間の射の一致などは不要なのです。

6. 第5の問題:篩 (sieve) を用いた位相の再定式化

前述の条件は、Grothendieck位相を篩 (sieve) によって定義する標準的な定式化を用いることで、「余極限の保存」というより洗練された形に書き直すことができる。篩は射の合成関係を内包しているため、引き戻しの保存を個別に仮定する必要がなくなる。

定義 6.1: 篩に付随する図式と余極限

包含関手を $I: B \to C$ とする。篩 $S$ に対して、関手 $P_S: S \to C$ を考える。これは、対象 $f: A \to X$ に対して $C$ の対象 $A$ を割り当て、射 $h$ に対して $C$ の射 $I(h)$ を割り当てる図式である。

定理 6.2 (Sieve Topology Formulation)

$C$ を圏とし、 $B$ をその稠密充満部分圏とする。 $J$ を $B$ 上の Grothendieck位相とする。もし任意の対象 $X \in \operatorname{Ob}(B)$ と $J(X)$ に属する任意の被覆篩 $S$ に対して、 $X$ が $C$ における図式 $P_S: S \to C$ の余極限となるならば、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ に対して前層 $k_Y = \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ はサイト $(B, J)$ 上の層になる。

証明:

任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ を取る。 $k_Y$ が層であることを示すためには、任意の $X \in \operatorname{Ob}(B)$ と $J(X)$ に属する被覆篩 $S$ に対して、以下の写像が全単射であることを示せばよい。

$$ \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_X, k_Y) \xrightarrow{\cong} \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, k_Y) $$

層条件の左辺について考える。我々が欲しい同型は、 $B$ 上の前層 $k_X = \operatorname{Hom}_C(-, X)|_B$ と $k_Y = \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ に関する自然な同型

$$ \operatorname{Hom}_C(X, Y) \cong \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_X, k_Y) $$

である。定理の仮定より $B$ は $C$ の稠密部分圏であるため、制限された米田関手 $C \to \widehat{B}$ は充満忠実となり、この同型が成立する。

一方、右辺について考える。前層の圏 $\widehat{B}$ において、任意の篩 $S$ はその要素である前層 $k_A$ の余極限として標準的に表される。すなわち、 $\widehat{B}$ において $S \cong \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} k_A$ が成り立つ。反変関手 $\operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(-, k_Y)$ は余極限を極限に変換するため、右辺は次のように展開できる。

$$ \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, k_Y) \cong \operatorname{Hom}_{\widehat{B}} \left( \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} k_A, k_Y \right) \cong \lim_{(A \to X) \in S^{\operatorname{op}}} \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_A, k_Y) $$

ここでも $B$ が $C$ の稠密部分圏であることから得られる同型 $\operatorname{Hom}_C(A, Y) \cong \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_A, k_Y)$ を適用することで、右辺は $\lim_{(A \to X) \in S^{\operatorname{op}}} \operatorname{Hom}_C(A, Y)$ となる。

ここで定理の余極限に関する仮定を用いる。仮定より、 $C$ において $X$ は図式 $P_S: S \to C$ の余極限である。すなわち、 $X \cong \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} A$ が $C$ において成り立っている。表現関手 $\operatorname{Hom}_C(-, Y)$ は反変関手であり余極限を極限に変換するため、これに適用すると以下の同型が得られる。

$$ \operatorname{Hom}_C(X, Y) \cong \operatorname{Hom}_C \left( \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} A, Y \right) \cong \lim_{(A \to X) \in S^{\operatorname{op}}} \operatorname{Hom}_C(A, Y) $$

以上の同型をすべて繋ぎ合わせると、

$$ \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_X, k_Y) \cong \operatorname{Hom}_C(X, Y) \cong \lim_{(A \to X) \in S^{\operatorname{op}}} \operatorname{Hom}_C(A, Y) \cong \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, k_Y) $$

となり、自然な全単射が存在することが示された。ゆえに、 $k_Y$ はサイト $(B, J)$ 上の層である。 $\blacksquare$

補足:なぜ第6節では「充満性」が必須なのか?

定理 6.2 において、単なる「稠密部分圏」ではなく「稠密かつ充満な部分圏」であることが必須である理由は、証明内で「 $B$ 上の篩 $S$ 」と「 $C$ から制限された前層 $k_A$ 」を同一視するステップにあります。

一方、定理6.2のように層条件を「篩(Sieve)」という前層の言葉で再定式化して評価する場合、 $\operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, k_Y)$ のように「前層の圏 $\widehat{B}$ における自然変換」として扱う必要があります。前層の圏 $\widehat{B}$ において、篩 $S$ は本来、 $B$ における表現可能前層 $h_A = \operatorname{Hom}_B(-, A)$ の部分関手として定義され、 $S \cong \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} h_A$ と標準的に表されます。証明中ではこれを $S \cong \operatorname{colim}_{(A \to X) \in S} k_A$ と置き換えていますが、これが正当化されるためには、任意の対象 $A$ に対して $h_A \cong k_A$ 、すなわち $\operatorname{Hom}_B(-, A) = \operatorname{Hom}_C(-, A)$ が成り立たなければなりません。これはまさに $B$ が $C$ の「充満部分圏」であることの定義そのものです。

したがって、「稠密性」によって $\operatorname{Hom}_C(X, Y) \cong \operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(k_X, k_Y)$ を保証し、「充満性」によってサイト上の被覆の構造( $h_A$ )と制限された前層の構造( $k_A$ )を一致させるという、両方の性質が不可欠となります。

7. 第6の問題:前位相 (Pretopology) から生成される篩の位相への拡張

第5節の定理5.2では、被覆族(前位相、pretopology)に対する層条件を扱いました。一方、第6節の定理6.2では篩(sieve)の言葉で位相を定式化しましたが、そこでは $B$ の稠密性と充満性が不可欠となりました。ここでは、稠密性や充満性を一切仮定することなく、第5節の強い仮定を Grothendieck 前位相に課すことで、そこから生成される篩の位相 (Grothendieck topology) についても層条件が成立することを示します。

定義 7.1: 前位相から生成される位相

圏 $B$ 上の Grothendieck 前位相 (pretopology) $K$ とは、各対象 $X$ に対して「被覆族」と呼ばれる射の族の集まりを指定するものであり、恒等射の公理、合成の公理、および引き戻しの公理を満たすものである。前位相 $K$ は $B$ 上に Grothendieck 位相 $J$ を生成する。具体的には、対象 $X$ 上の篩 $S$ が $J(X)$ に属するための必要十分条件は、$S$ がある $K$ の被覆族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ を含むことである。

定理 7.2: 層条件の同値性

圏 $B$ 上の前位相 $K$ と、そこから生成された Grothendieck 位相 $J$ を考える。このとき、$B$ 上の前層 $P$ が $K$ に関する層条件(被覆族に関する等化子条件)を満たすことと、$P$ がサイト $(B, J)$ 上の層(篩に関する普遍写像条件を満たすこと)は同値である。

証明:

($J$-層 $\implies K$-層の証明): 前層 $P$ が $J$ に関する層であると仮定する。任意の被覆族 $R = \{ f_i: A_i \to X \} \in K(X)$ を取る。$R$ から生成される篩 $S$ (すなわち、$f_i$ を経由して分解される射の全体)は、生成の定義から $J(X)$ に属する。$R$ 上で一致条件を満たす元の族 $(x_i)_{i \in I}$ (等化子図式の平行な射のイコライザーに入る元)が与えられたとする。篩 $S$ に属する任意の射 $g: Y \to X$ は $g = f_i \circ h$ と書けるため、$x_g = P(h)(x_i)$ と定義すれば、等化子の一致条件によりこの定義は分解の仕方に依存せず、$S$ から $P$ への自然な写像(適合族)を一つ定める。$P$ は $J$-層であるため、この適合族はただ一つの $x \in P(X)$ から誘導される($\operatorname{Hom}_{\widehat{B}}(S, P) \cong P(X)$)。ゆえに $P$ は $K$ に関しても層条件を満たす。

($K$-層 $\implies J$-層の証明): 逆に、前層 $P$ が $K$ に関する層であると仮定する。任意の被覆篩 $S \in J(X)$ を取り、$S$ 上の適合族(自然変換 $\alpha: S \to P$)が与えられたとする。生成位相の定義より、$S$ の部分集合として $K(X)$ に属する被覆族 $R = \{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が存在する。$\alpha$ を $R$ に制限すると、これは $R$ 上の一致条件を満たす元の族になる。$P$ は $K$-層であるため、これを引き起こす一意の元 $x \in P(X)$ が存在する。この $x$ が $R$ だけでなく $S$ 全体に対して $\alpha$ と一致することを示す。任意の $g: Y \to X \in S$ を取る。前位相の引き戻し公理より、族 $g^*R = \{ \pi_2: A_i \times_X Y \to Y \}$ は $K(Y)$ に属する被覆族となる。$P$ は $K$-層であるから、$Y$ 上で評価される値は $g^*R$ 上への制限によって完全に決定される。$\alpha_g \in P(Y)$ と $P(g)(x) \in P(Y)$ の両者を $g^*R$ 上に制限すると、部分族 $R$ 上で両者が一致していることと自然変換 $\alpha$ の可換性から、引き戻し上でも完全に一致することがわかる。したがって $\alpha_g = P(g)(x)$ となり、$x$ は $S$ 全体での一意な拡張となる。ゆえに $P$ は $J$-層である。 $\blacksquare$

定理 7.3: 生成された位相における層の構成

$C$ を圏とし、 $B$ をその部分圏(※充満性や稠密性は不要)とする。 $K$ を $B$ 上の Grothendieck 前位相とし、 $J$ を $K$ から生成される $B$ 上の Grothendieck 位相とする。もし $K$ に属する任意の被覆族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ が定理5.2の2つの条件(引き戻しの保存、および $C$ における有効的結合的エピ性)を満たすならば、任意の $Y \in \operatorname{Ob}(C)$ に対して前層 $k_Y = \operatorname{Hom}_C(-, Y)|_B$ はサイト $(B, J)$ 上の層になる。

証明:

定理5.2の証明により、$K$ に属する任意の被覆族 $\{ f_i: A_i \to X \}_{i \in I}$ に対して、$k_Y$ は $\mathbf{Set}$ における等化子条件を満たす。これはすなわち、$k_Y$ が前位相 $K$ に関する被覆族の層条件を満たすことを意味している。

ここで先の定理7.2(層条件の同値性)より、前層 $k_Y$ が前位相 $K$ に関する層条件を満たすことと、生成された Grothendieck 位相 $J$ に関して層になることは完全に同値である。したがって $k_Y$ は篩に関する普遍写像条件も満たし、サイト $(B, J)$ 上の層となる。

この過程全体を通して、層条件を前層の圏 $\widehat{B}$ における篩の余極限として評価するのではなく、$C$ 上の表現関手 $\operatorname{Hom}_C(-, Y)$ と $\mathbf{Set}$ への極限への変換のみに依存して評価しているため、部分圏 $B$ の充満性や稠密性は一切用いられていない。これにより命題が完全に証明される。 $\blacksquare$

参考文献